取組みと思い

取組みと思い

CADデータ一気通貫

「小玉さん、金型なんて誰でもできるよ」――。
コダマコーポレーション社長の小玉博幸は30年以上前に出会った遠藤国雄の一言に衝撃を受けた。
当時、遠藤は仙台市でエンジニアリングプラスチック金型の設計・製造を手がける企業の社長だった。
遠藤は金型の加工を効率化するために、自社の工作機械のすべてでコンピューター利用設計・製造(CAD/CAM)を積極的に活用していた。

■生産性を向上
その頃、小玉は武藤工業(現 MUTOHホールディングス)でCAD事業部の責任者として営業手腕を振るっていた。
「顧客が困っていることを解決することで他社と差別化したい」と思い、CAD/CAMを生産性向上のツールにしたいと考えていた。
まさに自分の考えを遠藤が実践していたのだ。
遠藤は1台の工作機械に1人のオペレーターが必要とされていた時代に、機械から数値制御(NC)データを作成するソフトなどを外し、段取り以外は金型の穴あけや2軸加工を無人で行っていた。
小玉は遠藤の先進的な取り組みに感動した。
そして2カ月に1度のペースで、CAD/CAMの勉強会と称して顧客を遠藤のもとに連れて行った。

■考え方に共感
しかし、詳細な寸法が入った図面を使って加工するのが当たり前だった当時、遠藤の考え方を理解できる人は数少なかった。
遠藤も「誰もオレのまねをしない。理解してもらえない」と、小玉にこぼした。
それでも小玉は設計で作成したCADデータを製造でも活用する「データの一気通貫」の考え方に共感した。
これが1989年に起業したコダマコーポレーションのビジネスモデルのベースとなった。

■データ自動修正
現在の主力製品であるフランス・ミスラーソフトウエア製3次元統合CAD/CAMシステム「TOPsolid v6(TopSolid)」シリーズは、設計から製造までのデータの一気通貫を実現する。
製品設計で不具合が見つかり、金型の設計をやり直す場合でもNCデータの修正などの手間がかからない。
変更前の製品モデルを変更後のモデルに置き換えることでデータが自動修正される。
こうした利便性が評価され、TopSolidの導入企業は4000社以上に上り、ライセンス数も1万ライセンスを突破した。
小玉は「データの一気通貫」という考え方を教えてくれた遠藤との出会いを今も大事にする。
そして今日の躍進につながる「データの一気通貫」をキーワードにした第2の出会いは、米国の展示会で待ち構えていた。

代表取締役社長 小玉博幸

CAM求めて起業

■顧客の立場で
武藤工業でCAD事業の責任者だった頃の小玉は悩んでいた。
コンピューター利用設計・製造(CAD/CAM)と工作機械を融合させる「データの一気通貫」のモノづくりを顧客に提案するため、CAMの販売を手がけるよう会社に提案していた。
武藤工業は当時、CADしか扱っていなかった。
顧客から「CAMの面倒も見てほしい」と要望が出ていたが、再三の提案にもかかわらず、CAD専業に徹する会社の姿勢は変わらなかった。
「顧客の立場に立って考えると嫌だな」。
小玉は自分が思い描くビジネスができないことに嫌気がさし、転職しようと考えた。
これを聞きつけた部下が会社設立を進言した。
心を動かされた小玉は1989年1月、横浜市青葉区のマンションを拠点に自分を含めた社員4人で起業した。

■展示会に活路
創業当初はアンドール製2次元CADシステム「CADSUPER」、のちに同CAMシステム「CAMCORE」を販売。
CADで作成した図面データをそのままCAMで使え、2次元データの一気通貫を実現した。
販売も好調で、小玉は「幸先の良いスタートが切れた」と振り返る。
次に曲面形状の加工に必要な3次元CAD/CAMを求める声に応え、93年に丸紅ハイテック(現丸紅情報システムズ)の3次元CAMシステム「CAMAND」を販売した。
高い評価を得たが、小玉が考える3次元データの一気通貫はまだ実現できなかった。
小玉は新たなビジネスの種を探しに海外の展示会に活路を求めた。
95年11月、米国デトロイト市の展示会で運命の出会いがあった。
会場にデータの一気通貫をコンセプトに開発した「TopSolid」が出展されていた。
検討の結果、開発コンセプトやCAD機能に優れたTopSolidに勝るものはなかった。
小玉は「日本で販売したい」と考え、96年2月にパリの展示会で会ったトップキャド社長のクリスチャン・アーバーに「ぜひ販売させてほしい」と直談判した。
すると相手は「OK」とあっさりと承諾してくれた。

■契約の検討迫る
ところが契約のためフランスの本社に行くと、事前に送った技術関係の質問状が積まれたままだった。
実はトップキャドは当時従業員10人程度の小企業で、これまでも同じように日本企業から契約話があったものの、企業規模を重視する日本企業が再訪することはなかった。
このためアーバーらは真剣に検討していなかったのだ。
小玉は「これが解決しなければ日本に帰らない」と強い調子で迫った。
小玉の本気具合を感じたアーバーらの態度は一変した。
こうして同年にTopSolidの日本での販売が始まった。

1989年に小玉(前列左)ら4人で起業した

二人三脚で機能改善

■信頼関係築く
「フランス人は気まぐれで人情味がないので、日本人と考え方が合わないから大変でしょう」――。
以前、小玉は知人からそう言われたことがある。
だが小玉は「フランス人ほど義理人情に厚く、信頼関係が築ける外国人はいない」と断言する。
2016年は「TopSolid」シリーズを扱うようになって20年目の節目の年。
しかし、販売当初は知名度がない上、機能面で日本の顧客を満足させるものでなかったため苦戦した。

■顧客から高評価
小玉はその都度、機能改善の要望をミスラーソフトウエアに伝え、ミスラーも各国の代理店の要望に応えて機能や操作性を向上させていった。
5月にフランスで行われた販売代理店会議でスイスの代理店関係者が「我々の言うことを真摯に聞いてくれる」と語ったように、顧客の要求に応えようとするミスラーの開発姿勢が、製品のブラッシュアップにつながった。
顧客の国内家電メーカー関係者は「導入から10年間付き合ってきたが、本当に良い製品になった」と評価する。
実績が上がるたびに小玉とミスラーの信頼関係は揺るぎないものになった。
TopSolidはデータ変換や数値制御(NC)データを修正する必要がなく、手戻りのないモノづくりを実現できるのが特徴。
従来型のCAD/CAMを複数組み合わせて運用した場合は導入前に比べて2~3割の生産性向上にとどまるのに対し、TopSolidは生産性が同3~5倍になるという。

■試作サービス
13年に発売した最新モデル「TopSolid7」は、設計する製品の部品10万点まで対応できる。
前モデルは8000点が限界だった。
部品点数が多い製品を設計する場合、TopSolidの前モデルや他社製CADはデータを分割して処理していた。
だが、コンピューター処理能力が向上し、飛躍的に性能が高まった。
「しっかりしたCAD/CAMを使えば工作機械の稼働率が上がり生産性が向上する」と小玉は言う。
01年にはTopSolidと工作機械を組み合わせた試作サービスを事業化した。
CAD/CAMの導入効果を顧客に実感してもらう狙いだ。
04年には東京都羽村市に工場を開設。
最新の5軸マシニングセンター(MC)や複合加工機などを備え、金属や樹脂を材料とした試作品を製作する。
入社数年以内の若手社員が5軸MCを使いこなして製品を仕上げる様子を見てもらい、生産性向上につながるCAD/CAMの活用を訴えている。

部品点数10万点まで対応できる「TopSolid7」

選ばれる企業へ

■受託加工を開始
「あんたたちはいいよな。CADだけを売っていれば良いのだから」――。
小玉は、かつて勤務していた武藤工業時代の顧客に投げかけられた言葉を今も鮮明に覚えている。
「自分たちで使ってみて『これだけ生産性が上がった』と自信を持って言うのが売る側の立場ではないか」と、販売姿勢を問われたのだ。
起業後も同じことを言われ「本当にその通りだ」と小玉は感じていた。
そこで自ら大手家電メーカーに頼み込んで試作品の製造を受託。
主力製品のTopSolidを使い、樹脂切削加工などを手がける「試作部」を2001年に発足させた。

■5軸MC活用
だがその後、自動車や家電関連拠点の海外移転が進んだため、一時は工場を閉鎖しようと本気で考えた。
ただ同時に、プロペラやスクリューなど複雑な形状を加工できる最新の5軸マシニングセンター(MC)を導入したものの、「うまく使いこなせない」
といった悩みも聞こえてきた。
欧州などの海外ではCAD/CAMを活用し、5軸MCや複合加工機を操作することが主流となりつつあった。
日本では遅れていた分野だけに「当社にとってチャンス」と感じた小玉は行動に出た。
5軸MCや複合加工機を使った試作とともに、09年に5軸・複合加工機とTopSolidとの連携活用を提案する「加工技術研究所」を開設した。

■社員に利益還元
試作部と加工技術研究所は相乗効果を狙い13年に統合。
16年3月期には全社売上高24億円に対し、試作・加工部門だけで約4億6000万円の売り上げを達成し、統合後初の営業黒字に転換した。
今後も自動車、航空宇宙、船舶、医療などで高品質な試作品を提供し、試作・加工部門で17年3月期に5億4000万円、20年3月期には10億円の売上高を目指す方針だ。
小玉は創業以来、会社全体で一度も赤字に転落しなかったことを誇りとしている。
16年3月期の経常利益率は15%。
将来的に「25%程度まで伸ばしたい」と話す。
その一方で株式上場は「しない」と断言する。
企業を大きくせず、適正な規模で高品質なサービスを提供し、「利益を社員に還元したい」という。
努力した社員に報いるために詳細な評価項目を設けて人事査定する。
技術職にはCAD/CAM技能認定や機械別操作認定などの認定制度があり、営業職にも認定試験を設けている。
経営計画書を毎年策定し、社員が目指す方向性を示す。
小玉は全社員の日報に目を通し、各部門の管理職と給与の査定も行う。
「コダマに行けば絶対に問題を解決してくれる」と言われるように、顧客の課題に寄り添う強い社員を育てる。
選ばれる企業にするため、小玉の奮闘はまだ続く。

2016年7月に日刊工業新聞の「不撓不屈」に掲載された記事から抜粋しています。
内容は掲載時のものです。

日刊工業新聞社の渡部 敦様、安倍 麻樹子様ほか関係者の皆様に心から感謝申し上げます。

試作部・加工技術研究所が手がけた試作品のサンプル