1年半で売上5億円を達成した自社ブランド包丁 エンジニアリングが生む新しい製造力
自社ブランド製品「KISEKI:」の開発
工業用刃物メーカーが自社ブランド立ち上げに挑戦
当社はこれまで工業用刃物を中心としたBtoB製品のみを扱ってきましたが、「自社オリジナル製品をつくりたい」という思いは以前から持っていました。キャンプブームの際にはアウトドア向け製品の企画も考えましたが、創業以来培ってきた“刃物づくりのノウハウ”を活かし、まだ世の中にない刃物を作りたいと考えるようになりました。
当社が扱う“超硬合金”は非常に硬く、耐摩耗性に優れた材質で、工業用刃物や切削工具として幅広く利用されています。しかし、この素材を使った包丁はこれまで存在していませんでした。
「それなら、私たちが作ろう」。
この想いを原点に開発を開始し、2023年に日本初の超硬合金包丁「KISEKI:」を発売しました。発売からわずか1年半で累計売上5億円を達成し、大きな反響を呼びました。
欠けやすい超硬合金に合わせた独自構造を採用
開発には約2年を費やしました。超硬合金は非常に欠けやすい素材のため、一般的な包丁のように刃物に穴を開けて柄を固定する方法は使えません。穴を開けようとすると刃が割れてしまうからです。
そこで、刃物と木柄の間に樹脂部品を挟んで固定する方式を採用しました。しかしその結果、木柄の形状は非常に複雑となり、当初予定していた外注加工は「形状が複雑すぎる」という理由で断念せざるを得ませんでした。
TopSolidがなければ実現しなかった自社加工
5軸マシニングセンタに木工用工具を取り付け、木柄を自社加工することにしました。設計から加工データ作成までの工程は、すべてTopSolidで行いました。当社で保有するCAD/CAMはTopSolidのみです。そのため、TopSolidがなければ今回の開発は実現しませんでした。
刃物と木柄を接続する樹脂部品は金型で成形するため冷却後にサイズが変化します。その誤差に合わせて木柄の形状を修正しなければならず、開発にはかなり細かな微調整が必要でした。TopSolidで形状を作ってマシニングで加工して試作品を作成し、干渉を確かめてまた直して…を幾度となく繰り返しました。
現在では、木柄の制作を完全自動化することに成功しています。ロボットを導入し、マシニングセンタと連携して24時間加工ができるようになりました。作り始めた当初は月300本程度の作成だったところ、ロボット化や刃つけの機械台数を増やしたことで月1000本程度の作成ができるようになりました。それでもなお11か月待ちが続く状況です。
今でも加工時間の短縮や勘合の強度向上を目指し、TopSolidを活用した改良を日々続けています。

▲「KISEKI:」ならトマトも片手で薄く切れる
TopSolidの導入に至るまで
きっかけは5軸加工機の導入
TopSolid導入前、当社ではCAD/CAMは使っておらず、導入している機械も3軸の加工機のみでした。当社で扱う製品は、多品種少量生産の一品物が多く、1日100種類ほどの新規注文に対応する必要がありました。それら全部にNCデータを作るのはとても時間が足りないため、現場の作業者が対話式でプログラムを作って加工するというスタイルが適していました。
3軸で仕事は問題なくできていましたが、刃物だけでなく部品加工の依頼が増え、他社が5軸加工を活用していることを知ったことで、このまま自社の得意なことしかできないというのでは今後困るだろうと考えるようになりました。5軸で加工できるものも取り入れていかないといけないと感じ、5軸加工機の導入を決意しました。
最初は3軸までの加工と同様、現場でプログラムを組んで5軸加工ができると聞いていたのですが、実際にやってみると5軸のプログラム作成は複雑で難しく、CAD/CAMの必要性を痛感しました。そこで10年ほど前にCAD/CAM選定を開始し、TopSolidを含む3システムを比較検討しました。
CAD/CAM/シミュレーション一体型システムで手戻りを防止
CAD/CAM未経験だったため、どういった観点で選定するべきか、様々なCAD/CAMを使ってきた経験者に意見を求めました。そこで、「複数システムを使い分ける運用をすると、データ変換時の不具合や、設計変更による手戻りが多くなり、結局ストレスが大きくなる」と教えられました。また、現場の担当者からも、手戻りやロス時間が少ないシステムを選びたいという意見が上がりました。
その点、TopSolidはCAD/CAM/シミュレーションが1つのシステムで統合されており、データがすべて連動するため、設計変更時の手戻りやミスを防ぐことができるところに惹かれました。
比較検討していた3社のCADの中で、TopSolidは決して安価なものではありませんでした。しかし導入後の効果を考えたとき、TopSolidが最適だと判断し、導入を決意しました。

▲「KISEKI:」の木柄部品 データはTopSolidで制作している
導入後の効果
“データの一気通貫”による効果
実際に導入してみると、CAD/CAM/シミュレーションが一体になっていることのメリットを強く感じました。データがすべて連動しているため、3Dモデルを変更すれば2D図面やCAMツールパスも自動で反映され、シミュレーションもその場で確認できます。設計変更時の手戻りがなく、変更漏れが起こらない点は大きな安心感につながっています。前述の通り、KISEKI:の開発初期は何度も試作を作り直す必要がありましたが、TopSolidを使うことでCADとCAMを行き来しながらスピーディに修正を行うことができました。懸念していた手戻りのストレスは全くありませんでした。
現在も包丁の強度向上や木柄構造の研究を続けており、TopSolidを活用して試行錯誤を行っています。
使い勝手の良さ
当社は工業用刃物メーカーですが、現在はロボット関連や機械部品などの加工も増えています。刃物製造のノウハウを活かし、刃物と同じ感覚で部品を作ることができるためです。
現在は刃物6:部品4の割合で製造しており、部品加工のデータ作成にもTopSolidを活用しています。当初は5軸加工が目的でしたが、現在では3軸加工でも幅広く使用しています。
また、当社ではお客様が作っている刃物を預かり、実物を測って図面化し、作成するという仕事があります。以前は手書きで図面を作成していたため、書き漏れが起きたり、あとから測り忘れに気が付き、実際の形状の寸法が分からなくなったりと困ることがありましたが、手書きからTopSolidでの3D設計に切り替わったことで、寸法間違いや測り忘れによるトラブルがなくなりました。
TopSolidを使うエンジニアも徐々に増え、今では6名の担当者がTopSolidを使って設計、加工データの作成を行っています。習得にかかる期間は1か月ほどで、ハイエンドCAD経験者からも「形状作成が簡単」と好評です。
もともとは5軸の加工データ作成用に導入したTopSolidですが、ここまで使う範囲を広げるくらいには、使い勝手に満足しています。
今後の展望
エンジニアリングが生む新しい製造力
岐阜県関市は刃物の町です。職人が手仕上げで刃付けをしている工場も多いですが、職人不足が深刻です。単価が上がらず賃金は低いと、そこには人が入りません。仕事がないわけではありませんが、作る人が少ない状態になってしまっているのが現状です。
そこで私たちは、職人ではなく、エンジニアリングの力で包丁を作っていく、新しい製造方法に挑戦しています。
TopSolidの木柄加工も含め、機械で標準化することで、100本の包丁を100本とも同じ品質でお客様に届けるということを目指しています。職人になりたい若者は少ないですが、エンジニアになりたい若者は多くいます。自動化設備を強化しながら生産性向上と人材育成を両立させ、社会に貢献していきたいと考えています。

▲ロボットとマシニングセンタの連動で24時間木柄の加工を可能にした
関市から世界へ
一般の方向けに、週一回工場の見学ツアーを実施しています。KISEKI:の制作の過程を見て、実際に切れ味を体験してもらっています。普通、包丁の購入といえばホームセンターや百貨店などで買うことが多いですが、KISEKI:が生まれた場所、いわば聖地に来て、体験をして買ってもらう、そんな新しい文化を育てていきたいという思いがあります。
また、KISEKI:の販売についても、今は国内のみの展開ですが、今後は海外展開を視野に入れています。工場見学もインバウンド向けに広げ、関市で生まれた包丁を世界に届けたいと考えています。
当社は毎日新しい注文に対応してきた企業であり、新しいことへの抵抗が少ないのが強みです。今後も新たな挑戦を続け、TopSolidを活用しながら製品をブラッシュアップしていきたいと考えています。

▲「KISEKI:」の開発に初期から携わる 技術部部長 古池氏
導入先の概要
福田刃物工業株式会社は、1896年創業の岐阜県関市に本社を置く工業用機械刃物メーカーです。創業以来培ってきた技術を強みに、多品種少量の工業刃物から部品加工まで幅広く対応しています。近年は独自ブランド「KISEKI:」の開発や自動化への取り組みを進め、エンジニアリングによる新しいものづくりに挑戦し続けています。

▲福田刃物工業株式会社 工場外観
| 社名 | 福田刃物工業株式会社 |
| 本社 | 岐阜県関市小屋名353 |
| 創業 | 1896年 |
| 代表者 | 代表取締役 福田 克則 |
| 資本金 | 3,000万円 |
| 従業員数 | 164名(2026年2月現在) |
| 事業内容 | 超硬合金の包丁、工業用機械刃物、工作機械、半導体製造装置向け部品の製造・販売 |
| ホームページ
KISEKI:サイト |
www.fukuda-web.co.jp |
| TopSolidの導入数 | TopSolid’Design 7 2本 TopSolid’Cam 7 1本 |